中国行きのスロウ・ボートのゆくえ
作家の村上春樹氏が、ヒートアップする東アジア領土問題を憂うエッセーを朝日新聞に寄稿した。
村上氏は作家としての立場から、東アジア文化圏の成熟した交流を確立するためのスタンスを明確に示している。
村上氏は領土問題が
「国民感情」の領域に踏み込んでくると、それは往々にして出口のない、危険な状況を出現させることになる
と警告し、
それは安酒の酔いに似ている
安酒の比喩を用いて、冷静になろうと呼びかけている。
また、
そのような安酒を気前よく振る舞い、騒ぎを煽(あお)るタイプの政治家や論客に対して、我々は注意深くならなくてはならない。
とも警告している。
(画像:Amazon)領土問題の過熱化が、現場の地道な努力を踏みにじる結果になることを憂慮する村上氏は、氏の長編小説『ねじまき鳥クロニクル』で「ノモンハン戦争」を取り上げたことについて触れ、
小説を書いたあとでその地を訪れ、薬莢(やっきょう)や遺品がいまだに散らばる茫漠(ぼうばく)たる荒野の真ん中に立ち、「どうしてこんな何もない不毛な一片の土地を巡って、人々が意味もなく殺し合わなくてはならなかったのか?」と、激しい無力感に襲われたものだった。
領土を巡る争いが、いかに不毛であるかを強調した。
(画像:Amazon)「国境の南、太陽の西」にJAZZは流れる
氏の真っ当な論理に多くの人たちは賛成を示したが、それと同時に、「安酒に酔っ払った人たち」の心にどこまで届くかはわからないとの意見もあった。
Twitterでは、
「村上春樹、まさに正論おっしゃってるし、文句のつけ様が無い。 ただし、その正論が、怒る若者のスレた心に届くとも、到底思えない。 安酒~論は、~パンが無ければ、お菓子を食べれば~ を想起させるよ。」
「この村上春樹の文章、絶賛してる人もいたけど正直いい年のオサンが何甘いこといってんだよ、としか思えなかった。」
「ぃゃぃゃぃゃ、両国とも文化(っつーかこのエッセイでは魂?)を国家で規制してるじゃないですか。その現実を無視して行き来も何もあったもんじゃないでしょうに。」
「さすが、とは思うけど、いつも安酒を呑んでいる身としては、なんかフクザツになったりする。」
といった意見も見られた。
(画像:Amazon)もちろん、賛同する声は圧倒的に多い。
「「他国の文化に対して、たとえどのような事情があろうとしかるべき敬意を失うことはない」(村上春樹)。テレビや週刊誌からは決して聴こえてこない種類の言葉だ。」
「「安酒を気前よく振る舞う」者が誰なのかを見極めるのが大事ですね。」
「書店の店頭から日本人著者の本が引き揚げられたことに対して「どうか報復的行動をとらないでいただきたい」と諌めつつ先の言葉に続く。全く同感。さすがは村上春樹。こういう言葉はどこからか必ず伝わる。」
といったツイートが寄せられており、内田樹氏や茂木健一郎氏など、著名人たちも賛意を表している。
冷たい水が安酒で乾いた喉を伝わって胃の腑に沁みわたるように、村上春樹氏の言葉が一人でも多くの酩酊者に届けばいいと願う人が多いようだ。

朝日新聞デジタル
http://digital.asahi.com/articles/Twitter / 検索 - http://www.asahi.com/
http://digital.asahi.com/articles/Twitter / 検索 - 村上春樹
https://twitter.com/i/#!/search