困難だった難聴治療に朗報
慶応義塾大学・生理学教室の岡野栄之教授らが、内耳の細胞再生に成功した。認知症の治療に用いる薬剤を難聴のマウスに与え、聴力の改善を確認したという。
耳の奥で、音を電気信号に変えて脳に伝える「蝸牛有毛細胞」。騒音や老化、抗がん剤の副作用などで壊れやすく、難聴の原因となる。今回の研究成果で、内耳性難聴などの治療に光明が見えた。
この研究は米ハーバード大学との共同で勧められ、1月9日付の米科学誌ニューロンに掲載された。
内耳細胞の再生を促す薬を開発
難聴患者は世界の人口の1割位上も存在しており、研究が進められてきた。しかし「蝸牛有毛細胞」は再生しないため、難聴の根本治療は困難とされていた。
今回の研究では有毛細胞の発生を、周囲の細胞間と情報を伝達する「Notchシグナル」が邪魔をしていることに着目した。
研究グループは、認知症の治療薬を開発する過程で見つかった「Notchシグナル」の阻害剤を、難聴にしたマウスの「内耳」に投与した。経過を見たところ、数ヶ月後には低い音を認識する部分の有毛細胞が1.5倍ほど増加した。
さらに、マウスに複数の音を聞かせて、脳に伝わる電気信号を測定すると、低い音域で反応の改善が認められたという。
生きた動物で有毛細胞の再生に成功し、聴力の改善につなげたのは世界で初めて。薬剤の実用化に向けて今後、さらに研究は進められる。

岡野研 Weblog
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