赤色蛍光カルシウムセンサーの開発に成功
2014年11月25日、東京大学は高感度・超高速の赤色蛍光カルシウムセンサーの開発に成功したと発表しました。
この研究は科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究事業に基づいて行われたものです。
研究成果は2014年11月24日からNature Methodのオンライン版で公開されています。
神経発火とカルシウムセンサー
神経細胞は膜電位が活動電位に達して初めて、上流の神経細胞から下流の神経細胞へ情報を伝達することが可能。
膜電位が活動電位に達することを発火と呼びます。
記憶が成立する際など、特定の情報が伝達される際には、この高頻度神経発火が重要な役割を担っていると想定されています。
神経発火は細胞内カルシウムイオン濃度が上昇することから、たんぱく質性カルシウムセンサーを用いることにより、神経活動を観察することができます。
生きた動物個体のイメージングに実用化されている緑色カルシウムセンサーがすでに開発されていますが、一色のみのため、2つの神経細胞間の関係を調べることは不可能。
また、緑色カルシウムセンサーでは高周波の発火を追従することはできませんでした。(神経入力の有無と強度のみが測定可能)。
たんぱく質性高感度赤色カルシウムセンサー
今回の研究では、従来に比較して4~8倍に相当する高周波の発火に追従する赤色カルシウムセンサーの開発に成功したとのこと。
麻酔下で頭部を固定したマウス大脳皮質の神経細胞のカルシウムイメージングに成功し、実用化を確認しました。
哺乳類の脳で緑色センサーを併用することによって、抑制性神経細胞と興奮性神経細胞の同時活動イメージングに成功し、この結果は電気生理学的手法で見いだされていた結果と一致していたことから、センサーによる計測に信頼性があることが判明しました。
今後の展開
今回の研究により、従来では不可能であった生きた動物個体において異なる神経ネットワークの関係を解明することが可能になりました。
この方法は行動・記憶など高頻度の神経発火が関係している神経活動を生きた脳で観察することが可能になります。
精神疾患やアルツハイマー型認知症などの高次脳機能障害の解明に役立つ可能性を持っています。
カルシウムイオンは脳の神経伝達だけでなく、すべての細胞において情報伝達に働いていることから、カルシウムイオンの動態の異常が関連する循環器疾患やアレルギー疾患などの原因解明や創薬のスクリーニングへの応用が期待できます。
(画像はプレスリリースより)
科学技術振興機構 東京大学 プレスリリース
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20141125/index.html